イベント民泊が残したレガシー。阿波おどりの事例に学ぶ、民泊×地方創生のヒント

今年の6月に住宅宿泊事業法、通称「民泊新法」が施行されてから早1ヶ月。7月6日時点での全国の届出件数は5,397件(うち受理件数は3,938件)となっており、施行当初は伸びが心配されていた届出件数も、日を追うごとに着実に増加しつつある。

この民泊新法の施行をきっかけに、「民泊」を地域活性の切り札として活用しようと考えている自治体は少なくない。特に人口減少に伴う経済衰退や空き家問題が深刻化している地方にとって、民泊は空き家の解消や観光客増加を実現する数少ないチャンスでもある。

現に、新法をめぐっては東京23区や京都、横浜などの都市部では条例により民泊ができる区域や日数の制限などを上乗せ規制している自治体が多いのに対し、地方では上乗せ規制をしている自治体はあまりない。

また、新法で定められたルールの中でも特に民泊ホストから批判的な意見が多い「年間180日」という営業日数制限についても、地方部は都市部と比較すればそれほどネガティブに捉える必要はない。

民泊以外の旅館やホテルといった宿泊施設の稼働率を見てみると、東京や大阪といった首都圏は客室稼働率が80%を超えているのに対し、地方部では軒並み40~50%に留まっている。訪日観光客数が3,000万人を超えると言われており、これだけ宿泊施設不足が叫ばれている昨今においても、地方部の宿泊施設の年間稼働率はそもそも180日程度に収まっているのだ。

さらに、最近では一度日本を訪れたことがあるリピート訪日客が、最初の訪日時に訪れた東京や大阪、京都ではなく、よりディープな体験を求めて地方部へと流れている動きもある。

このように、民泊新法の施行は様々な課題を抱える地方が再び元気を取り戻す大きな機会でもある。しかし、いくら制度面が整ったとしても、実際に民泊をやりたいと思う人がいなければ地方での民泊は広がっていかないのもまた事実だ。

旅館組合とのしがらみにより、民泊を推進したくてもなかなか前に進めない自治体。ゴミや騒音、殺人事件などのネガティブなイメージが先行し、民泊に前向きになれない地域住民。いざ民泊を始めようと思うと立ちはだかる、複雑な手続きと設備要件。こうした課題をクリアし、地方で民泊を根付かせていくためには、一体何が必要なのだろうか?

阿波おどりイベント民泊に学ぶ、地方に「民泊」を広げていくコツ

そのヒントが、昨年8月に徳島市で開催された「徳島市阿波おどり」の期間中に行われたイベント民泊にある。「イベント民泊」とは、お祭りやコンサートなどのイベント開催により一時的に宿泊施設不足が見込まれる場合に限り、開催地の自治体が要請することで旅館業の営業許可がなくても自宅を宿泊施設として提供できるようにする仕組みのことを指す。

イベント民泊は過去にも青森県五所川原市の「立佞武多」、青森県弘前市の「弘前さくらまつり」、沖縄市が開催した「広島カープ優勝パレード」など全国各地で開催されてきたが、いずれも自宅を提供してくれるホストの確保に苦しみ、宿泊施設数は10に満たない状況が続いていた。そんななか、昨年の「阿波おどり」イベント民泊では38部屋が実際に稼働し、過去最高規模となる延べ270名以上がイベント民泊を活用して宿泊するなど、成功を収めた。

この阿波おどりイベント民泊の事務局を担っていたのが、Airbnbとも提携しながら民泊ホストの育成事業を展開している人材サービス大手、株式会社パソナだ。(参照記事:「徳島市初の阿波おどりイベント民泊は大好評。延べ270人以上が宿泊」)

阿波おどりイベント民泊の担当だったパソナの川﨑陽子氏は、阿波おどり開催の1ヵ月半前から現地に滞在し、民泊ホストの募集に向けて地域を駆け回った。部屋の貸し出しに興味がある地域住民に向けた説明会も7回開催したという。結果として、過去に実施されたイベント民泊の規模を大幅に上回る31名もの人々が、ホストとして自宅の部屋を貸し出すことに同意してくれた。

株式会社パソナ 川﨑陽子氏

「民泊をしたい」人よりも、「協力をしたい」人を集める。

イベント民泊を成功させるためには、部屋を貸し出してくれるホストの存在が不可欠だ。過去最高規模となるホスト数を集められた秘訣について、川﨑氏は「大事なのは『民泊をしたい人』ではなく『協力したい人』を集めることだ」と語る。

一般的に民泊に対するネガティブなイメージや、見知らぬ人を自宅に上げるということに抵抗感を持つ人は多い。「変な人が来たらどうしよう」という不安もあれば、「モノを壊されたらどうしよう」「盗まれたらどうしよう」と心配する人もいる。

こうした環境の中では、「民泊をしたい人」だけを集めようとしてもなかなか手は挙がらない。そうではなく、阿波おどりを成功させ、地域を盛り上げるために「協力したい人」という切り口で声をかけることが重要なのだという。

実際に阿波おどりのイベント民泊でも、自宅提供を申し出てくれた31名のうち半数以上は「民泊がしたいから」という理由ではなく、「地域のために力になりたいから」という理由だったそうだ。

大事なのはマッチング。民泊ホストもゲストを選べるように。

川﨑氏によれば、イベント民泊を成功させるためには「ホストの不安をなくすこと」も大事だという。赤の他人を自宅に受け入れるホストにとっては、やはり「どんな人が来るのか分からない」という不安をまず口にするそうだ。

阿波おどりイベント民泊のケースでは、パソナが事前にホスト一人一人からしっかりとヒアリングを行い、「海外の人がいい」「家族で来てほしい」などどんなゲストに来てほしいかを把握したうえでゲストとマッチングしたことで、ホストの不安を解消し、満足度向上を実現した。このあたりのマッチングは人材ビジネスを手がける同社ならではのノウハウでもある。

また、川﨑氏はホストの不安を払しょくするにあたっては「Airbnbと連携し、Airbnbのサイトを通じた受け入れを進めていった点も大きい」と語る。

今回ホストとして山梨からのゲストを受け入れた大東真吾さんは、「パソナの川﨑さんにイベント民泊のお話しを伺ったときは『どのような方が来るのだろう』という不安があったが、Airbnbを利用すればどのような方が泊りに来るのかが事前に分かると知り、不安がなくなった」と話す。

阿波おどり期間に合わせてAirbnb上に公開された特設ページ

イベント民泊を通じて起こった、ホストたちの心の変化

この阿波おどりイベント民泊を通じて、見知らぬ他人を自宅に泊めるという初めての体験をした地域住民の気持ちにも変化が起こる。

もともと料亭で女将をしていた79歳の藤村桂子さんは、最初は受け入れに積極的でなかったものの、いざ予約が入ると準備が楽しみになり、お部屋にお花を生け、ゲストがやってくる当日は自らもしっかりメイクとドレスアップをしてもてなした。

藤村さんの活き活きとした姿を見たときに、川﨑氏は「人を迎えるとはこういうことであり、民泊は楽しみと同時にやりがいを感じられるものなのだ」と実感したという。

藤村桂子さん

また、新谷幸雄さん(70歳)は、使い慣れないスマホの翻訳アプリを駆使して一生懸命外国人ゲストとコミュニケーションをとり、達成感を覚えたという。

東京と大阪からスウェーデン人も含むゲストを迎えた持田直宏さんは、「やる前はこうしてあげたい、ああしてあげたいという気持ちがいろいろとあったが、実際にゲストを迎えると皆さんそれぞれ予定があり、考え方もそれぞれに違うので、ゲストのペースに合わせるのがいいのかなと思った」と話す。

一方的に押しつける「おもてなし」ではなく、ゲストの予定にも配慮して適度な距離感を保つことの大切さを学んだのだ。

持田さんが運営する簡易宿泊所

今回ホストを体験した多くの方が、当初は「ゲストの方に満足してもらえるかが不安」と口を揃えていた。しかし、ゲストとの交流の中で地元のおすすめの食事処を教えてあげたりプレゼントをしたりなど、思い思いの方法でおもてなしをした結果、ゲストの方に喜んでもらうことができ、自分たちでもやればできるという自信が生まれたそうだ。

イベント民泊を体験したホストほど、新法の届出も頑張れる。

あの阿波おどりイベント民泊からもうすぐ1年。徳島市では、今年の阿波おどりではイベント民泊ではなく新法の仕組みを活用した民泊により、昨年よりもさらに多くのゲストを受け入れることを目指している。

新法による民泊を増やすのは、一過性ではなく本当の意味で民泊を地域に根付かせ、地方創生につなげるためだ。また、新法であれば徳島市だけではなく徳島県全体として取り組める点も大きい。

パソナは民泊をはじめたい人々に対して民泊新法の届出手続きのサポートを行っているが、川﨑氏によれば「昨年にイベント民泊を通じてホストを受け入れた経験がある人のほうが、手続きが大変でも頑張ってやろうとする」傾向にあるという。お金儲けのためではなく、土日や阿波おどりのときなどに誰かが家に来てくれて、あの楽しさをまた感じることができるのであれば継続して民泊をやりたいという人が多いそうだ。

一度ホストとして民泊を体験し、その楽しさややりがいを知っている人ほど、複雑な手続きでも乗り越えようとする。これは、まさにイベント民泊が残した正のレガシーだと言える。

実際に、このレガシーは数字にも表れている。イベント民泊の自宅提供者のなかから6名が新法の届出をしたほか、3名が簡易宿所の許可を取得して本格的な民泊営業を開始している。全体の新法の届出件数を見てみても、徳島県は7月6日時点で22件となっており、広島県の26件に次いで中四国エリアで2番目に多い数字となっている。決して大きい数とは言えないものの、阿波おどりイベント民泊の体験はたしかにその足跡を残している。

2020年に向けて、イベント民泊で地域の土壌をつくる。

民泊を地域活性の切り札として活用したいという自治体は、まずは地域のお祭りやイベント、スポーツ大会やコンサートなど、一時的に観光客の集客が見込める機会を使ってイベント民泊に取り組んでみるところからスタートしてみるのも一つの手だ。

自治体が民泊を推進しようとしたときに、まず配慮すべきなのは地域の旅館組合との関係性だ。しかし、川﨑氏は「イベントのときこそ旅館組合と協力するチャンス」だと語る。

旅館組合が民泊に反対するのは、宿泊施設の増加によって自らの経営に悪影響が出るという懸念が主な理由だが、イベント民泊の場合はそもそも一時的な観光客増加により宿が足りなくなるという状態が前提であり、民泊による旅館への影響は考慮する必要がない。また、イベント民泊はあくまで一時的なものなので、旅館にとっては長期的にライバルが増えるわけでもない。

その意味で、「地域のために」という前提さえ共有できていれば、イベント民泊は旅館組合の協力を引き出しやすいというのが川﨑氏の考えだ。ちなみに、徳島市の阿波おどりのケースでは旅館組合の了承がとれており、実際に旅館組合の理事会にも出向いて話をし、協力を得られたという。

また、自治体にとってはイベント民泊をやったとしても自宅を貸し出してくれるホストが見つかるのかという不安もあるが、そこについては先述したように「『ホストを探す』のではなく地域を盛り上げるための『協力者を探す』という意識で取り組むことが重要だ」と川﨑氏は強調する。

「自治体は、(東京オリンピック・パラリンピックが開催される)2020年にイベント民泊をやろうと思ってもその時になってから手を打つのでは負担も大きい。2018年、19年のうちに取り組み、ノウハウを創る必要があります。一回でも開催すれば、次の開催時にはホスト経験者がリードしてくれます。全員が一年生だと初めの一歩はとてもハードルが高いです。阿波踊りイベント民泊では、家を提供された方だけではなく、人の紹介や、説明をする場を提供してくださったりと、表向きの数字には出ていませんが、多くの徳島の方が応援やご協力をしてくださいました。」

そう語る川﨑氏の言葉には、実際にゼロから阿波おどりイベント民泊を成功に導いた担当者ならではの説得力がある。

現在、川﨑氏は阿波おどりイベント民泊を経験したホストを集めたホストコミュニティを作っており、定期的に同窓会のような形で集まっているという。イベント民泊を通じて知り合った人々が、同じことを成し遂げたもの同士、かけがえのない仲間として交流を深めているそうだ。ライバルではなく共助の関係として、なにかあったときに助け合えるこうした民泊仲間の存在も、徳島市に残された数字には表れないレガシーだ。

まとめ

イベント民泊を通じて、地域の人々がはじめて民泊ホストという働き方を体験する。その素晴らしさを体感したホストたちは、自らの成功体験をモチベーションにして複雑な新法の手続きも乗り越える。そして地域に民泊に取り組む人々の助け合いコミュニティが生まれ、そのコミュニティが新たなホストの誕生を後押ししていく。

昨年に阿波おどりイベント民泊を体験した徳島で起こっていることは、民泊を地方創生に活用したい自治体が参考にするべき一つのロールモデルになるはずだ。ぜひ同じ取り組みが全国へと広がり、日本各地でユニークな「民泊×地方創生」の事例が生まれることを期待したい。

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(MINPAKU.Biz 編集部 加藤佑)