阿波おどり民泊が紡ぐ、カンボジアと徳島の絆。民泊による「国際交流×地方創生」

8月12日から15日にかけて徳島市で開催された「阿波踊り」。毎年120万人が訪れる阿波踊りの時期になると、決まって徳島市内の宿泊施設が不足する。そこで、徳島市では昨年はじめてイベント民泊を実施し、延べ270名以上の宿泊者が利用するなど自治体によるイベント民泊として過去最大規模の成功を収めた。

今年の阿波踊りではイベント民泊自体は実施されなかったものの、昨年初めて民泊ホストを経験した地元民らが中心となり、民泊新法の仕組みを利用して今年もゲストを自宅に受け入れた。

今年は、日・カンボジア交流団体のソカカンボジアが中心となり、昨年徳島市のイベント民泊運営事務局を務めた株式会社パソナの協力のもと、在日カンボジア人の社会人、大学院生ら5名がはじめて徳島市を訪問、阿波踊りと民泊を体験した。

徳島とカンボジアでは、以前から地元の人々を主体とする交流が続いていた。徳島市内にある徳島商業高校とカンボジア・プレイベン州にあるカンボジア日本友好学園では2012年からお菓子の共同開発に取り組んでおり、そうした実績も考慮され徳島県は2020年の東京五輪・パラリンピックでカンボジアの「ホストタウン」にも登録された。今回の民泊もカンボジア人と徳島に暮らす地元との人々との国際交流を意図して企画されたものだ。

民泊が新しい「生きがい」に。旅人から未知の話を聞く楽しさ

昨年のイベント民泊ではゲストを受け入れできる日数が限られていたため、受け入れが実現できなかったものの、今年はしっかりと民泊新法の届出を済ませ、今回はじめてカンボジア人のゲストを受け入れた山崎さんご夫妻は、「定年後は夫婦で旅をするのが趣味だったが、民泊ホストになったことで、いろいろな人の知らない土地の話を聞くことが楽しみになった。ホストの仕事は新しい生きがいになりそうだ。」と語る。

山崎さん夫妻

はじめての民泊ホストの経験には受け入れ側としてインターネット等を活用して自身で集客しなければならないなどの課題も感じたとのことだが、深夜1時ごろまでカンボジアの国や彼らの仕事などについての話に花を咲かせ、翌日の阿波踊りに備えて踊り方を教えるなどして自宅での国際交流を十分に楽しんだようだ。

山崎さん夫妻。パソナ社員、ソカカンボジアメンバーらと共に

Airbnbを通じてゲストの予約をとっている山崎さんは、リスティングに掲載する写真や文章、ゲストとのやり取りも自分でがんばっている。「やはり予約が入るとドキドキしますね。明日はロシアの方が来て、その次は台湾の方が来ます。」と嬉しそうに語る山崎さんの顔が印象的だった。

ロフトスペースをベッドルームに

また、山崎さん夫妻は近くで同じように民泊を営んでいるホストの方とも定期的に交流し、ホストとしての情報交換をしたり、受け入れきれないゲストの紹介をしあったりしているそうだ。民泊を通じ、ゲストとホストだけではなく地元の方々同士で新しい交流が生まれているのも面白い。

民泊が生む交流はお金には代えられない。

普段は徳島県上勝町に住んでいるものの、市内に保有している別宅を利用して昨年はじめてイベント民泊を体験、民泊ホストとしてゲストと交流する楽しさと素晴らしさを味わった平井さんご夫妻も、パソナの協力を得つつ何とか民泊新法の届出を完了。今年も民泊ホストとしてカンボジア人3名を受け入れた。

中央が平井さん夫妻。パソナ社員、ソカカンボジアメンバーらと共に

平井さんにとってカンボジア人のゲストを民泊として受け入れるのははじめてのことだったが、徳島まではるばるやってきた彼らに対し、「徳島に来てくれてありがとう」と笑顔で何度もお礼を繰り返した。「民泊はお金のためにやっているわけではない。こうした交流はお金には代えられない。」と語る平井さん。大好きなお酒を片手に、カンボジア流の「乾杯」を繰り返しながら深夜までカンボジア人らと交流を楽しんだ。

民泊が国際交流のきっかけに

12日にはじめての阿波踊りと民泊を楽しんだカンボジア人ら一行は、翌日には徳島商業高校を訪問。ビジネス研究部に所属し、カンボジア日本友好学園と共同でお菓子やスイーツなどを開発している高校生らと交流し、同校の取り組みをヒアリングしつつ、お菓子や料理についての意見交換を行った。

カンボジア人からのアドバイスに真剣に耳を傾ける高校生ら。徳島商業高校にて

阿波おどり民泊に見る、民泊が秘めた「国際交流×地方創生」の可能性

今年の阿波踊りは徳島市と観光協会、徳島新聞らの会計をめぐる対立により毎年恒例の「総踊り」が中止となり、かわって阿波おどり振興協会が独自に「総踊り」を強行するなど波乱の展開となった。しかし、一連の問題は元をただせば阿波踊りの開催に伴う赤字の累積が明るみに出たことが発端だ。

考えてみれば、県内ではなく県外や海外からの観光客も含めて毎年120万人以上もの人々が訪れる日本最大級のお祭りが、なぜ赤字になってしまうのだろうか。その一因は、宿泊施設の問題にある。

普段は人口25万人ほどが静かに暮らしている小都市の徳島市には、当然ながら120万人もの観光客を受け入れるだけの宿泊施設キャパシティは存在しない。そのため、阿波踊りを見に訪れる観光客の多くは、踊りの盛り上がりがピークを見せる前に早々と観光バスに乗り込み、県外のホテルや旅館へととんぼ返りをすることになる。

阿波踊りを見終え、観光バスの到着を待つ人々による長蛇の列

外から訪れた観光客のほとんどが徳島市内には泊まらないため、宿泊による収入はもちろん、阿波踊り後の市内観光による収入や地元の飲食店にもたらされる収入も限られる。結果として、阿波踊りは世界中の人々を惹きつけられるほど魅力的な観光コンテンツでありながら、地元の経済には十分な恩恵をもたらせていないのだ。

この問題を解決する可能性を秘めているのが民泊だ。阿波踊り期間中だけ特別に旅館業の許可がなくても自宅を貸し出すことができる「イベント民泊」の活用はもちろん、新法の届出による民泊も魅力的だ。

特に観光客が集中するのは阿波踊り期間中だけなので、年間180日という新法の制限は大きなネックとはならない。むしろ、新法下の民泊であれば阿波踊り期間以外でもゲストを受け入れられるため、イベント民泊よりもより多くの観光客とふれあい、徳島の四季を楽しんでもらうこともできる。

現状は新法手続きの煩雑さや民泊自体の認知度やイメージがネックとなり、徳島県の住宅宿泊事業者受理件数は24件(7月27日時点)と限られている。しかし、この裾野が広がり、より多くの観光客の宿泊を受け入れられるキャパシティが整えば、阿波踊りが地域経済にもたらす利益は今よりはるかに大きくなることだろう。

また、今回のカンボジア人らのように、海外からの観光客が阿波踊りや民泊を経験し、地元の人々との触れ合いを通じて「交流人口」から「関係人口」へと変化していけば、徳島や阿波踊りの魅力が国境を越えてさらに大きなインパクトが生まれるはずだ。

民泊が「国際交流」のきっかけを生み出し「地方創生」の起爆剤となる。徳島の阿波踊り民泊には、そんな民泊が持つ大きな可能性を感じさせてくれる。

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(MINPAKU.Biz 編集部 加藤佑)